政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】
「見てないけど。でもずっと様子が変だから」
「そうなんだ…何もないよ」
ほっとしたように小さく息を吐いた。
それでも日和の丸くて綺麗な瞳には不安が滲んでいる。
抱きしめられていた場面は見てない、それがわかればその不安が払拭されるかと思ったのに。
「楓君…ごめん、言ってないことがあって」
「なに?」
「今日…松堂君から告白されたの」
「…そっか。だろうね、そう思ってたよ」
「分かってたの?」
「聞いてたんじゃないよ。分かってはいた、送り出す前から。前に会った時に俺に向けた目はそういう目だったから」
「ごめんね、でも断ったし彼とは何もないの。あの…実はね、えっと…」
徐々に声が細くなっていくのは涙を堪えているからだとわかった。
おそらく日和は松堂から抱きしめられたことを俺に言おうか悩んでいたのだろう。そして今、それを話すことにしたのだろう。
俺は彼女の手を握った。
同時に潤んでいた瞳から雫が落ちていく。
ぽたぽたと枕に落ちていくそれを見ると苦しくてどうしようもない。
「いいよ、別に言わなくて。その代わりキスさせて」
「楓君」
全てわかって結婚したと思っていた、結婚すればいつか俺のものになると思っていた。