政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】
どうして楓君が怒っているのか、そして松堂君も珍しく棘のある口調なのか理解できないでいた。
楓君がふっと小さく笑った。

「夫婦の形は人それぞれ。私たちには私たちの夫婦の形がありますので。では、失礼します」
「…」
「行くぞ、日和」
「え、あ、はい。あの!松堂君!またね」
「うん、また」

 今日はここ最近で一番、最高気温が低いと今朝のニュースで見た。
だからなのか、私の手足は酷く冷たい。それなのに私の腕を掴みずんずんと前に進む楓君に合わせて歩かなければならないから余計に足がかじかみ、転んでしまいそうになった。
 少し先に停めてある黒光りの車の後部座席に乗るように言われ、無言で頷いた。

「どちらまで?」
「自宅に」
「かしこまりました」

 後部座席に私と楓君とで乗り込むとすぐに年配の運転手が車を走らせた。
楓君の送迎は毎日今運転をしている人が行っている。
 自宅に到着するまでどう見ても機嫌の悪い、怒っている楓君に話しかける勇気もなく私は無言で窓の外に視線を移した。
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