政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】
しばらくすると自宅に到着し、私と楓君は車を降りる。しかし、その車は再度出発することはなく、それを見ておそらく楓君はまた会社へ向かうのだと察した。
 エレベーターの中でもお互い無言で、話しかけるきっかけを作りたいのに上手く言葉が出てこない。
もしも好きな人じゃなければ、スラスラと言葉が出てくるのだろうか。

 自宅ドアを開け、靴を脱ぎリビングに足を踏み入れると同時に私は勇気を出して話しかけた。

「えっと…その、松堂君は昔からの友達?というかそんな感じの人です。それから…」
「敬語になってるけど」
「あ、」

 思わず自分の口を手で塞いだ。その瞬間、彼の匂いが全身を包み込んだと思ったら勢いよく抱きしめられていた。

「あ、あ、の」
「幼馴染にはため口で俺には敬語ってムカつくんだよ」
「…楓君、」
「今日はあと二回抱きしめていいんでしょ?」

今朝二度、敬語を使ってしまっている。そして今も、敬語で話しかけてしまった。
無言でこくりと頷くと、楓君は更に私を強く抱きしめる。
ドキドキしすぎて脈がおかしくなっていないか本気で心配してしまう。

 こんなハグを今日はあと二回もするという事実に頭が沸騰しそうだ。


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