政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】

仕事は終わったのかな。

「別に何もないけど」
「そうなの…?そっか、じゃあ切るね、仕事の邪魔しちゃ悪いから」

楓君の声以外、スマートフォンは周囲の音は拾っていない。つまり、どこか部屋にでもいるのかもしれない。

「仕事はもう終わってる。だからいいんだよ」
「終わったんだ、お疲れ様…」

何の用もないのに電話を掛けてきているということだろうか。普段の楓君ではないのは確かだ。

「日和は?外出てたんでしょ」
「うん、そう。ご飯食べてきたの。松堂君とたまたま会って…2人きりじゃないけど」
「幼馴染は?帰ったの?」
「もちろん、帰ってるよ。私はタクシーで帰ってきたの」
「そうか」
「楓君は?ご飯食べた?」
「食べてない。これから。でも別に食べなくてもいいんだけど」
「ダメだよ!ちゃんと食べないと」
「わかった」

 夫婦らしい会話をしていると、楓君の小さな声が聞こえた。どうしたのだろうと思っていると

「多分、清川が来たから電話切る」
「あぁ、うん。わかった」
「今、宿泊先のホテルだから。ちゃんと戸締りはしっかりするように」

うん、というと受話器口から無機質な音が聞こえた。
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