政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】

「じゃあ、またね」
「送らなくて大丈夫?」
「全然大丈夫だよ。舞衣子だって一人で先に帰っちゃったし」
「そっか」

残念そうに眉尻を下げる松堂君に私は笑いかける。
タクシーを止めて乗り込もうとすると、松堂君の手が伸びてきた。
あ、と声を出すが既に彼の手が私の手首を掴んでいた。

「松堂君?」
「あ、ごめん。また連絡する」
「うん、また」

その手はすぐに離された。
いつもと違う雰囲気の彼の変化に気づかない振りをして私はタクシーに乗り込んだ。車内ですぐに行き先を告げる。車が発進すると同時に窓の外にいる松堂君に手を振った。
彼はいつもの柔らかい笑みを浮かべて私に手を振り返す。私の乗る車が見えなくなるまで彼が手を振っていた。

帰宅すると同時に鞄の中に無造作に入れていたスマートフォンが鳴った。
慌てて取り出すと楓君の名前が表示される。

「もしもし、楓君?」
「日和?今どこ」
「えっと、今は家だよ。ちょうど帰ってきたの」
「そうなんだ」

数秒間があった。電話越しでも気まずい空気が伝わる。
楓君が用もなく電話をかけてくるなど絶対にありえないと思っていたから、私は「何かあった?」と訊いた。
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