政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】

 気まずい雰囲気を搔き消したい私は咄嗟にテレビをつけようとリモコンに手を伸ばした。楓君は、テレビなどはほとんど見ない。

「テレビはいいよ」
「…でも、」
「それよりも、」

 彼が私の方に体を向けた。眉目秀麗な顔は舞衣子が言うように“イケメン”である。ただ、私は楓君の顔を好きになったわけではない。幼いころ、迷子の私の手を引いて助けてくれた初恋の相手だから忘れられずにいた。

「日和って好きなやついるの?」
「……え」
「いるの?」

 普段は何にも興味を示さないくせに、どうしてそういう質問をするのだろう。私が困るような質問を平然とぶつけてくる。
それを聞いたところで、既に婚姻届を提出しているから何の意味もないのに。

膝の上で拳を作り、掠れた声で言った。

「いる、いるよ…」
「……」

 数秒の間の後に、突然彼の手が私の手首を掴む。小さな声が出た。

「か、楓君?」
「いるんだ。だとは思ってたけど」
「あ、いや、いるけど…でも、」

 強い力で私の手首を拘束する楓君はどこか苦しそうだった。

「残念でした。日和はもう結婚してるから」
「楓君…」
「この関係は死ぬまで変わらないし、俺は離す気はない」

目を見開く私はその言葉に何も言えずにいた。

「わかってる…よ。私は、楓君の奥さんだから…だから、」
「だったら、キスしていいよな」
「っ」
「結婚してるんだから」

 楓君は固まる私の腰に片方の手を添え、ぐっとそのまま引き寄せる。
全身に力が入り、体が動かない。
 楓君の怜悧な顔が近づくことだけは理解していた。
ギュッと目を閉じると同時に、冷たい彼の言葉とは裏腹の、優しい触れるだけのキスを落とす。


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