政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】
 そんな俺の感情を知らない日和はわざわざ一人分以上彼女から距離を取ってるのに俺の方に向かって寝返りを打つ。そして、あろうことか、俺に近づく。

「日和、起きろって。ここはお前の部屋じゃない」

 何度か肩を揺らしてみても全く起きる気配がない。相当飲んだのだろう。
飲まなければいけない状況を作ったのは俺だ。しかし、今はそんなことを考えている余裕はない。

 どうにかして彼女を起こさなければならないのに、そうするには必然的に日和に触れることになる。

「はぁ、仕方ない…」

 寝てしまえば間違えて彼女に触れたりキスしたりすることもないだろう。
俺は日和に背を向けてきつく目を閉じた。
早く眠りにつこうとするのに、隣から聞こえる寝息に頭が冴えていく。

すると、突然。

「か…えでくん…」
「っ…」

 背後から俺の名前を呼ぶ日和の声がした。勢いよく振り返るがそこにはやはり気持ちよさそうに眠る彼女の顔があった。

 寝言で今、俺の名前を呼んだ。ハッキリと聞こえたそれは幻聴なんかじゃない。俺はそっと手を伸ばした。
きめの細かい頬に触れる。
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