エリート官僚は授かり妻を過保護に愛でる~お見合い夫婦の片恋蜜月~
「だからこそ、教えてほしい。きみこそ、忘れられない男性がいるんじゃないか?」

俺の問いに芽衣子が固まった。それはぎくりとして、というより、泣きそびれて困惑げな表情に見える。

「私に? そんな人がいるんですか?」

なんとも不思議な返事がきた。それを俺が尋ねたいのだけれど。

「俺の職場の後輩に、きみの大学の後輩がいてね。滋田というんだけど、きみに憧れていたと。そして、きみが高校大学と『忘れられない男性がいる』と誰とも付き合わなかったと聞いたんだ。それほど長く好きだった人ではなく、見合いで出会った俺と結婚したのはどうしてだろうと……」

芽衣子の顔がぱっと変わった。びっくり、とも、閃いた、ともつかない表情だ。
というか、うちの奥さんはこんなに表情が豊かだったのかと今更驚いたくらい。いつも慎ましやかな笑顔しか見せなかったのに、こんなふうに子どもみたいに表情が変わるのか。

「わかりました! それは祖父のことです!」

芽衣子が叫び、今度は俺が変な顔する番だった。

「祖父……というのは、円山小鉄先生?」
「はい、そうです! 祖父は私にとって理想の男性なんです!」

芽衣子の祖父、元参議院議員の円山小鉄先生は、彼女が中学生の時に亡くなっている。以前、話を聞いたときも、おじいちゃん子だったのだなという印象は受けたけれど、理想の男性とまでいくのか。
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