エリート官僚は授かり妻を過保護に愛でる~お見合い夫婦の片恋蜜月~
「父や兄のような無神経さがなくて、明るく気遣いのできる男性で。地元では亡くなった今でも祖父の名前を書いて投票箱に入れる方がいるらしいです。そのくらい人望のあった人なんです。私のことも本当に可愛がってくれました。女だからこうしろ、みたいなことは一度も言われたことがありません。『芽衣子のやりたいようにやりなさい』って言ってくれました。祖父を超える人でないと付き合わないというのが、私の学生時代の気持ちでした」
「そうか、お祖父さんが理想で……忘れられない人……」
「でも、それはもちろん、告白の断り文句でもありました。……強引なタイプの男性は苦手ですし、そう言っておけば波風立たずに断れるって思って。でも、駿太郎さんの耳に入るまでの噂になっていたとは知りませんでした」

芽衣子は恥ずかしそうにうつむく。それからばっと顔をあげた。

「あの、でも! ……駿太郎さんは祖父と同じくらい素敵な人だと思っています」
「芽衣子……」
「思いやりがあって、私に真剣に接してくれる。たくさんお喋りするわけじゃないけど、大事なことは伝えてくれる」

真っ赤な顔と潤んだ目で、俺を一生懸命見つめる芽衣子。俺は頷き、彼女の言葉を待っていたけれど、耐えきれなくて抱き寄せてしまった。

「好き。愛してます、駿太郎さん!」
「俺もすごく芽衣子を愛してるよ」

芽衣子の柔らかな身体を抱き締め、その髪に顔を埋めると、安心と幸福で涙が出そうになった。
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