エリート官僚は授かり妻を過保護に愛でる~お見合い夫婦の片恋蜜月~
「強い痛みは、赤ちゃんが大きく動いたり強く蹴った可能性もありますね。あとは、お腹を支える靭帯が引っ張られて痛かったということもあります。今回の張りは生理的な張りであまり心配ないと思いますが、帰宅していつまでも強く張ったままなら、お薬を出すのでまた来院してくださいね」

医師の言葉に私と駿太郎さんはほーっと息をついた。

「駿太郎さん、心配かけてごめんなさい。私、騒ぎ過ぎちゃったかな」
「いいんだ。俺が不安だったから……先生、ありがとうございました」

夫婦で医師に頭を下げると、「不安なときはいつでも来てくださいね」と優しい言葉をかけてくれた。
待ち合いの廊下に出たところで、私のスマホが鳴った。見れば、兄の名前が表示されている。
ふたりで顔を見合わせ、急いで夜間受付の前を通り抜け外に出た。古い電灯がひとつあるだけの通用口前でようやく電話に出ると、兄の呑気な声が聞こえてきた。

『やっと繋がったよ~。何度も電話したのに~、電波悪いところにいたの? おまえ』
「兄さん! 怪我は? お父さんは?」

私の怒鳴るような声に、兄は「うるさい」と文句を付けてから答える。

『右腕とぶつけて打撲。アバラも痛いけど骨は折れてないって。あと首にコルセットはつけてるけどね。びっくりしたよ、信号待ちしてたら乗用車が突っ込んできて。結構スピード出てたから、交差点の真ん中くらいまでぶっ飛ばされてさー』
「そ、それで父さんは?」
『ああ、父さんの方が怪我軽いかもだな。首は俺と一緒でコルセットだけど、他はどこも痛くないって。あんまりどこも痛くないから、今、もう一回あちこち検査中。頑丈だよなぁ』

兄の呑気な報告にへなへなとその場に座り込んでしまった。
すぐに駿太郎さんが抱きかかえるように起こしてくれる。
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