社長と同居しているだけです。結婚に愛は持ち込みません。

私は、姫宮 花梨(ひめみや かりん)23歳
大手アパレルメーカー、フォワードグッドの経理部に勤務している。



遡ること、1か月ほど前。


今、私の母は病気で入院している。
母が体調不良で病院に行くと、胃に癌が見つかってしまった。
幸いにも、早期のため、手術は無事に成功した。
しかし、手術が済んでも、しばらくは入院が必要だ。


私は母と二人暮らし。
父は私が小学校の頃に他界した。

女手一つで、苦労しながら、私を育ててくれたのだ。
けっして生活は楽では無かったが、母は愛情をいっぱい私に注いでくれた。
そんな母が私は大好きで、憧れの女性でもある。

その母に癌が見つかった時には、目の前が真っ暗になるほどだった。
私は、時間が許す限り、母のお見舞いに来ていた。


日曜日、今日は朝から天気が良く、日差しがキラキラと美しい。
母の外出許可を取った私は、車椅子を押しながら、近くの公園に来ていた。

公園には、母の好きなコスモスが一面に咲いていて、風に揺れるその様子は、ピンクの絨毯が、ヒラヒラと降りてきたようにも見える。


母が冷えないように、肩にカーディガンを掛けた。


「花梨、今年もコスモスが綺麗ね…コスモスの花ことばを知ってる?」

「…そういえば、知らない…」

「…乙女の真心、謙虚、調和とかいろいろあるのよ…」

「ふぅーん…そうなんだ。」

「コスモスは、あなたに似ているわね…」

「はははっ…お母さんだけだヨ…そんな事言ってくれるの…」



公園には遊歩道もあり、木洩れ日がキラキラと心地よい。
ふと、その遊歩道に目を向けると、年配の男性が何か考え事をしているように、ゆっくりと歩いていた。


すると、後ろから、何か大きな声で叫びながら男が走ってくる。
よく見ると、その手にはナイフのようなものが、キラッと反射していた。

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