社長と同居しているだけです。結婚に愛は持ち込みません。


その男は、考え事をしている年配の男性に向っているようだ。


咄嗟に私は、駆け出した。



「あっ!!危ない!!」



私は手を伸ばして、男を止めようとした。

その時… “ザクッ”

次の瞬間、腕には痛みのような、熱いような、経験したことの無い衝撃があった。

私は恐るおそる腕に目を向けると…ナイフで切られた自分の腕から、ポタポタと血が垂れている。


「………」
私は、驚きと痛みで言葉が出ない。



声を出したのは、ナイフを持った男だ。
「…お前…何を…邪魔しているんだ!」



すると、私達に気づいた、周りにいた人たちが、その男を押さえつけて捕まえてくれた。
その姿を見て、ホッとしたのもあるが、我に返った私は、急に自分の状況に気が付いた。



「…いっ…い…いた…痛い……」

「君…大丈夫かい…怪我してるじゃないか…私をかばってくれたんだね。ありがとう…」

考え事をしていて、狙われていた男性が慌てて近づいて来た。

私は、男性が無事だったことに安堵した。
「よ…良かったです…刺されなくて…」

「君、すぐに病院に行こう!」

しかし、私は車椅子の母を指差した。
母が、少し離れたところで、不安な顔をしているのが見える。

「私は大丈夫です。母を病院に連れて行ってください…」


すると、その男性はどこかに電話をしている。
電話を切って、間もなく車が到着した。
その車は、やけに黒くピカピカ光る高級車だ。
車からはスーツ姿の男性が二人降りてきた。


「お嬢さん、私とこの秘書達が、あなたとお母様を病院にお連れします。私は、久我啓介(くが けいすけ)と言います。また改めてご挨拶させていただきます…どうぞ車へ乗ってください。早く…」


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