社長と同居しているだけです。結婚に愛は持ち込みません。
「わ…私は…その…」
ちょうど私が話し始めたとき、葵さんが部屋に戻ってきた。
葵さんは、私の様子に気づいたようだ。
「…花梨、どうかしたのか?顔色が悪いが、大丈夫か?」
「も…申し訳ございません。私、緊張してしまったようで…もう失礼してもよろしいでしょうか?」
私は一刻も早くこの部屋を出たかった。
桐ケ谷美和から離れたかった。
「花梨、医務室まで送ろう。」
葵さんが、私の肩に触れた。
思わず、大きな声を出してしまった。
「やめてください。一人で大丈夫です。」
葵さんは、驚いた顔で固まっているが、その後ろにいる桐ケ谷美和は、嬉しそうに微笑んでいるのが見える。
私は居たたまれず、社長室から逃げるように部屋を出た。
悔しいのか、悲しいのか自分でもわからない。
ただ、涙が自然とポロポロと流れ落ちる。