社長と同居しているだけです。結婚に愛は持ち込みません。
日付がそろそろ変わろうとする頃、玄関で物音がした。
私は急いで玄関に迎えに行くと、葵さんと秘書の牧田さんが一緒にいた。
葵さんは、牧田さんに支えられている。
かなり酔っているようだ。
牧田さんは、支えていた葵さんを私に預けた。
葵さんは、ふらふらとしながらも、自分で歩こうとしている。
「花梨さん、社長がこんなに酔ったところは、初めて見ました。…社長をよろしくお願いします。」
牧田さんはそれだけを言うと、すぐに帰ってしまった。
背の高い葵さんが寄りかかると、潰れそうになる。
葵さんを支えながら、何とか部屋の中へ入った。
「葵さん、大丈夫ですか?しっかりしてください…」
「…花梨、居てくれてよかった…」
「…っえ?」
葵さんの言葉に耳を疑った。
葵さんは、お酒に酔っているのだろうか。
しかし、葵さんは私に寄りかかるようにして、私を抱きしめた。
心臓がドクドクと大きな音をたてる。
葵さんを何とかベッドルームまで運ぶと、今までの習慣なのか、よろけながらもスーツを脱ぎ、パジャマに着替える葵さんは流石だ。
着替えが済むと、葵さんはそのまま目を閉じて寝てしまった。
葵さんと何も話はできなかったが、私が居たことに対して、“よかった”と言ってくれた。
それだけで、こんなにも嬉しい自分がいる。
自然と口角が上がってしまう。