社長と同居しているだけです。結婚に愛は持ち込みません。

翌日の朝、目が覚めると、横に寝ていたはずの葵さんの姿はすでになかった。


慌てて起き上がろうとしたその時、ドアを開けて葵さんが入ってきた。
手にはトレーを持っており、そこにはマグカップが2つのっている。



「花梨、おはよう…作ってくれたスープ温めたぞ…」

「…葵さん、ありがとうございます。」



葵さんはスープを一口頬張ると、目を閉じて味を確かめているように見える。


「野菜の優しい甘みが、すごく美味いな。二日酔いには最高だな。」


葵さんはこのスープを気に入ってくれたようだ。
作って良かったと口元が緩む。

そして、少し時間をおいて葵さんがゆっくりと話し始めた。



「花梨、昨日のことは、秘書の牧田から全部聴いたよ。いろいろ悪かったな…」



葵さんから、謝罪の言葉が出たことに驚いた。
しかし、牧田さんはどこまで話をしたのだろうか。


「花梨、話しておきたいことがある…」


さらに、葵さんは私をまっすぐに見ながら、話を続けた。

その内容は、桐ケ谷美和と自分の関係についてだった。
桐ケ谷美和と葵さんは大学時代の先輩と後輩だった。
遊び盛りだった葵さんは、桐ケ谷美和とも遊び友達として、付き合っていたそうだ。
ただし、沢山いる女友達の一人だったと葵さんは言う。
しかし、葵さんは遊びのつもりでも、桐ケ谷美和はそうではなかったのだろう。
桐ケ谷美和は葵さんに、真剣に付き合って欲しいと言ってきたそうだ。
葵さんはその申し出を、受けられないと断ったらしい。

桐ケ谷美和は葵さんを諦めるために、仕事の拠点をニューヨークに移したようだ。
そして、数年の年月が経ち、桐ケ谷美和は世界でも活躍するデザイナーへと成長したのだ。
一度は葵さんを諦めた桐ケ谷美和だったが、仕事のパートナーとして、もう一度葵さんに近づいてきたのだ。
葵さんのことを、諦めることができないみたいだ。

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