社長と同居しているだけです。結婚に愛は持ち込みません。
私達は亮介さんに案内されて、お屋敷の中の客間へ通された。
お屋敷の中は和風モダンの様式になっている。
木造のツヤツヤと光る廊下を通り、客間に到着する。
客間には大正時代を感じるような、応接セットが置かれていた。
ゴブラン織りの椅子が豪華で、座るのも戸惑うほどだ。
私は少し緊張しながら、案内された応接に座った。
しばらくすると、年齢は70歳くらいだろうか、とても気品と威厳のある男性が部屋に入ってきた。
その存在感に圧倒される感じがする。
この男性こそがグッドグループトップの 久我政宗。
端正な顔立ちに鋭い目元、短く刈り上げられた白髪が印象的だ。
政宗さんは、私を鋭い目で見ている。
「君が葵と結婚した花梨さんかね?」
「は…はい。花梨と申します。」
「君は噂によると、葵の父親である啓介を、身を挺して守ったそうだね。」
「身を挺してといわれるほどでは、ありません。」
「はっはっは…勇敢なお嬢さんだ。」
政宗さんは目が鋭いが、話をすると表情が柔らかくなる。
睨んでいるわけではなさそうだ。
葵さんの秘書である牧田さんは、政宗さんに丁寧に挨拶をして話し始めた。
今回のグッドグループと桐ケ谷美和の契約の件、そして桐ケ谷喜一郎が登場した件について、政宗さんに説明をする。
「政宗様、グッドグループと桐ケ谷美和の契約パーティーに、美和の叔父でもある、桐ケ谷喜一郎が出てきたのですが ………… 」
牧田さんの説明を横で聞きながら、なぜ私がここへ連れてこられたのかが、少し分かってきた。
桐ケ谷喜一郎は、政財界でかなり力を持っているが、旧財閥のグッドグループを率いる久我家は、まだ自分の思い通りにはならない。そのため、喜一郎からすれば、久我家とはなんとかしても、繋がるためのパイプを作りたいと思っていたのだろう。
そこで、目を付けたのが、グッドグループの次期トップの座に、有力候補と言われている葵さんだ。
葵さんと美和が結婚すれば、久我家との太いパイプができて、喜一郎にとっては、これ以上ありがたい事はない。
美和が葵に夢中なことを知り、それを利用しようとしているのだ。
政宗さんは、目を閉じて牧田さんの話を聴いていた。