社長と同居しているだけです。結婚に愛は持ち込みません。
何も言わず、目を閉じて話を聴いていた政宗さんはゆっくりと目を開けた。
「花梨さん、君に質問したい。葵のどんなところが好きで、どんなところが嫌いなのか教えて欲しい。」
私は突然の質問に驚いた。
きっと、これは何かのテストなのだろうと思う。
しかし、何か良い答えを出そうと考えたが、政宗さんは全て見抜いてしまうだろう。
本当の気持ちを、自分の言葉で伝えるしかないと覚悟を決めた。
「…葵さんは、誤解されやすいのですが、優しくて思いやりがあります。そして約束を必ず守ってくれる真面目な人です。嫌いなところなんて思い当たりません。」
「…なるほど…では、花梨さん…君は葵を愛しているのだね。」
「それは違います。…愛よりも、もっと深い尊敬と信頼です。」
すると、政宗さんは微笑んで、私の後ろへ目線を送った。
「…葵、お前は幸せだな。」
私は政宗さんの言葉に驚き、振り返ると、そこには葵さんの姿があった。
どうやら、秘書の牧田さんは、葵さんに行き先を連絡してあったようだ。
葵さんはその連絡を受けて、急いで駆け付けたようだ。
「…花梨…」
葵さんは恥ずかしそうに、頬を赤くして口元を押さえている。
政宗さんは、葵さんに向かって微笑んだ。
「葵、私は自分の後継者に誰を推薦するかは、はっきり言うと迷っていたんだ。しかし、今日この場で決めることにした。」
葵さんはもちろん、そこにいる全員が、政宗さんの突然の言葉に驚きすぎて声も出ない。
「私の後継者には、葵を推薦することにしよう。」
葵さんは、少し戸惑った顔をした。
「政宗お爺様、なぜ急に私を推薦してくださるのですか?」
「葵、お前と、ここにいる花梨さんなら、グッドグループを安心して任せられると感じたんだ。…愛情ではなく、尊敬と信頼…これは私が経営者として、ずっと大切にしてきた言葉なんだ。これからも、この気持ちは忘れないで欲しい。」
葵さんは、そのまま何も言葉はないが、涙が頬をつたっている。
私は、思わず葵さんを抱きしめていた。
「花梨、…嫌な思いさせて悪かったな。俺も花梨を尊敬して信頼している。…俺の大切な妻だ。」
葵さんの言葉に、堪えていた何かが破れたように、涙が流れ出した。
心臓が壊れるくらいに熱くなっているのを感じだ。