社長と同居しているだけです。結婚に愛は持ち込みません。
家事もひと段落して、昼食を済ませた私は、買い物に出かける準備をしていた。
すると、私の携帯に知らない番号からの着信があった。
「久我花梨さんの携帯でしょうか?」
姫宮ではなく、久我花梨と言われて驚いた。
婚姻届けがだされているので、久我花梨で間違いはないが、まだ結婚したことを知っているのも限られた人達だけのはずだ。
「はい。久我花梨ですが…」
「私は警察のものですが、ご主人の久我葵さんが、交通事故で病院に運ばれました。病院名は、一本松病院です。」
葵さんが交通事故と聞いて、体中の血液がどこかに消えたように、手や顔、体中が冷たくなった。
その後、どうやって病院に行ったか分からないくらい動揺してしまった。
タクシーに乗り、行き先を告げた記憶があるくらいだ。
病院に到着して、受付で尋ねると、手術は終了し、集中治療室にいると言われた。
集中治療室の入り口に行くと、秘書の牧田さんが力なく項垂れて椅子に座っていた。
牧田さんも、腕に包帯をしている。怪我をしているようだ。
「…牧田さん、大丈夫ですか?」
私が駆け寄ると、牧田さんは立ち上がって、私に頭を下げた。
「花梨さん、申し訳ございません。私が一緒にいたのに、久我社長が怪我をしてしまいました。」
「…牧田さん、無事でよかった。何があったのですか?」
「私と久我社長は、桐ケ谷美和の元同僚に話を聴いたんです。そして、帰ろうと車に乗ろうとした時、後ろから突然、車が突っ込んできたんです。私は跳ね飛ばされ、腕の骨折で済みましたが、久我社長は全身を強く打ち、重症なんです。」
牧田さんは、話しながら泣き崩れている。
「…でも、葵さんの手術は終わっているのですよね?きっと大丈夫ですよ。葵さんは、運がいい人ですから…きっと…」
すると、病室の自動ドアがスーッと滑らかに開いた。
中から、医師が一人出てきた。