花吹雪~夜蝶恋愛録~
「おい」


呼ばれてはっとする。



「あ、えっと。すみません。何でしたっけ」


前後の会話すらよく思い出せない。

そんな美咲を見た豊原は、呆れているのか何なのか、肩をすくめる。



「どうした? お前、今日、ちょっと変じゃないか?」

「寝不足なだけですよ」


笑って誤魔化しておく。


シェフは、鉄板の上でレアに焼かれたステーキ肉に包丁の刃を入れてサイコロ状にしたものを、皿に盛って出してくれた。

同じタイミングで、店員がサラダとスープを持ってくる。



「いっただっきまーす」


サイコロ肉を口に放り込む。


ジューシー。

味の違いはよくわからないが、あまり噛まずに飲み込めたから、やっぱり高級な肉というのはすごいらしい。



腹が減っていたのもあり、次々に肉を口に入れていたら、見兼ねたらしい豊原に、



「野菜も食えよ」


と、たしなめられた。



「ばあさんに叱られるぞ」


思わず笑ってしまったら、豊原も笑った。



変な感じだなと、また思った。

豊原は、家族でも恋人でも友達でもなくて、でもただの嬢と客というのとも少し違う。


心に何かがくすぶるのがわかる。


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