花吹雪~夜蝶恋愛録~



店を出て、再び車に乗り込んだ。

しかし、車は、きた道を戻っているようではなかった。



「どこに向かっているんですか?」


と、美咲が聞いたら、豊原は逆に、



「どこに向かいたい?」


と、聞き返してきた。


目的地のないドライブ。

その言葉はまるで、ふたりのこの関係の先を問われているみたいだと思えてきて、だから美咲はその質問には答えられなかった。



指の先は今も冷たいままだ。



「おい」


どれくらいかの後、豊原に呼ばれて顔を向けた。



「やっぱりお前、今日、変じゃないか? 時々そうやってぼうっとしてる。本当は何かあったんじゃないのか?」


鋭いなと思った。

美咲は苦笑いして、今度は誤魔化すことはせず、正直に言った。



「ちょっと、嫌な夢を見て」

「……嫌な夢?」

「夢っていうか、過去の記憶? トラウマみたいなものなんですけど。そういうのを思い出して」


言いながら、自分の声が震えていることには気が付いた。

それでも美咲は息を吐き、記憶を辿る。



「私ね、お母さんに捨てられたんです。捨てられたっていうか、おばあちゃんのところに預けられて、『すぐ迎えにくるからね』って言われたんですけど、そのままお母さんは戻ってきませんでした」

「………」

「雪の日でした。すごく寒かった。私はお母さんに『待ってるね』って言って。あれから10年以上経つのに、時々、ふとそのことを思い出して」
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