愛を教えて欲しくない
さよならのつもりで

どうして



春、下見と受験のために数回ばかり通っただけの、見慣れない景色を歩きながら、クルクルと頭上を踊ってひらりと地面に着地していく、散り始めの桜の花びらを眺めていた。
踏まれて透けて、色が薄くなった花びらたちがピタリと道路にくっついている。

自分と同じ制服を着飾る高校生たちを尻目に、始まる高校生活に果てない倦怠感を感じながら前を歩く学生たちに倣って足を進めた。



通りと同じように軽く散り始めている桜の木が出迎えた正門をくぐって、昇降口の前で配っていたクラス表を受け取った。プリントに落ちてきた花びらを払い落としながら、視線を落として自分の名前を探す。

膨大な数の名前の中から「4組」と書かれたクラスに「榎沢愛無」の文字を見つけて、目線をあげたとき、玄関のガラスに張り出されているポスターサイズのクラス表が目に入った。

改めて4組に自分の名前があるか表に目をやったときだった。自分の名前のそのすぐ下に、ここにいるはずのない男の名前を見つけたのは。

動揺で、飲み込んだ唾がゴクリと音を鳴らす。まぶたをギュッと閉じてからゆっくり開いて、確かにあの男の名前であることを確認して、軽いため息を吐く。なんでいるんだ。

自分の下にたしかに書かれた名前になんだか嫌な予感がして、頭の中に2つの名前を思い浮かべ、目の前に貼り出されたクラス表を端から端まで凝視する。そうして見つけてしまった2つの名前に、小さく触れた。


「なんで、ここに…」


思わず口から零れたその言葉は、私と反対に期待に胸躍らす生徒たちの弾む声にかき消されて、誰にも気づかれないまま地面に落ちた。

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