愛を教えて欲しくない
入学式の開会宣言後、すぐに校長先生の長い話が始まったことに、飽き性の私は5分もすると耐えきれなくなって。目の前で意気揚々と生徒に向けての言葉を送る校長に悪いとは思いながらも、左耳にセットしておいたワイヤレスイヤホンのボタンを押した。
お気に入りの曲が流れてきたことを確認して、周りの生徒に不審がられない程度に辺りを目だけで見回す。
式の前に荷物を置きに1-4の教室にいったところ、本人の姿こそなかったが、後ろの席にかかっていた四角い形をした黒いリュック。あれはたしかにあいつのものだった。
だけれど今ここにいないこともたしかである。左から順に出席番号で並んでいるのに、私の右隣は空席だ。それにあとの2人が座るはずであろう席もぽっかりと空いている。
座席表の2人の名前が書かれていた席には鞄もなにも置かれていなくて、本人かどうかは未だ確認できずにいる。が、まだスマートフォンが普及されていない子供時代を過ごした人たちに聞けば、1人は確実にキラキラネームと言われる名前をしているので、別人の可能性は極めて低い。ましてや2人揃っての同姓同名の人間と出会うなんて確率宝くじに当たるよりも難しいので、本人に間違いないだろう。
と、どれだけ思考を巡らせても、いない3人の謎に辿り着かないことに苛立ってきた私は、考えるのをやめて、お気に入りの音楽に揺られながら襲ってきた睡魔に身を任せ、瞼を閉じることにした。