愛を教えて欲しくない

そんなことを考えていれば、寝室の方からガチャと音がした。

あまりにもタイミングの悪い幼馴染に若干の怒りを覚え、完全無視を決め込もうと、叫ぶアニメの主人公のセリフに耳を傾けた。


「まなちゃん」と私を呼ぶ声は寝起きだからか、いつもよりも低く感じる。

呼ばれた名前に反応もせず、背後に感じた気配すらも無視してアニメを見ていれば、とうとう痺れをきらした慧の手が後ろから伸びてきた。


視界の端に慧の腕を捉えたと思ったときには既にその腕は私を捕らえていた。

「俺とアニメどっちが大事なの?」

寝起きで低い声に更に拍車がかかった低く不機嫌な声。

「…アニメ」とボソッと呟けば、私を抱きしめる腕にぐぐっと力が籠った。


「慧いたい、」

私と自分の体でソファの背もたれを挟んで抱きしめ、私の肩に顔をうずめている幼馴染の頭を撫でてやれば、すんと鼻を鳴らして目線をあげた。

「俺の方が好き?」

目だけをひょっこり覗かして、問いかけてくるその瞳は小さい頃と何一つ変わっていない。


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