愛を教えて欲しくない

そして私もまた、この瞳に弱いのは小さい頃から変わっていない。

「はいはい慧ちゃんですよ」と頭をポンポンと優しく叩いてなだめれば「まなちゃんがそう呼ぶ時大抵心こもってない!」と大きな子供が駄々こね始めたので、拘束が緩くなった腕に今だと立ち上がった。


というかそもそも私は何に怒っていたんだっけ。慧を見下ろしながら、子犬のような瞳ですっかり丸め込まれてしまってすっかり頭から抜け落ちた当初の怒りの矛先を探した。


「あ、というか、どうやって不法侵入したの?」

さっきまで自分と天秤にかけてブー垂れていたアニメを楽しそうに観だした呑気な幼馴染に思い出した怒りの原因を投げかける。


私を見上げながら、不法侵入?と悪びれる様子もなく首を傾げる慧をソファに座らせて、もう一度質問を投げかける。


「だから、なんで鍵が閉まってたのに慧は入ってこれたの?」

閉め忘れたっけ?と不安げな表情を浮かべる私に、ちがうよ!とばっさり否定して慧がニコッと笑って言う。

「おばさんに鍵もらっちゃった♡」

思いもよらなかった言葉に思わず固まってしまったけど、すぐに昨日の慧の発言から考えたら納得もできる。


たとえ信頼における幼馴染だとしても家主は私なのに許可も取らずに鍵を渡した母に怒りを覚えたけど、初期費用を払ってくれたのは母だし、あの人に何を言っても無駄なのでここは大人しく目をつぶることにした。

< 31 / 39 >

この作品をシェア

pagetop