何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】
「もー、天音。外ばっかり見て。」

天音は大広間に戻っても、今日もただ外を眺めているだけ。
そこにある景色を、ぼんやりと見ているだけ。
華子がそんな天音の様子を心配するのは、無理もない。
あの日から、空っぽのようにただ外を眺める天音は、まるでネジをなくしたブリキの人形のよう。
そして、華子ができる事といえば、いつも通りに話しかける事だけ。

「…。」

星羅もそんな天音を、ただ見ている事しかできなかった。

「あ…。」

そんな時、久しぶりに、天音が声を漏らした。

「天音?」

華子の耳には、天音のその小さな声が、かろうじて届いていた。

「ゆ……き……。」

そしてまた、天音は消え入りそうな声を絞り出した。


『まだ夢を見ていたかった?』




「はぁはぁ。」


気づけば天音は走り出していた。
外へ向かって。

「天音!」

追いかけて来る華子の声は天音の耳には聞こえない。

『信じるのは目に見えるものだけじゃないよ。』

「う…っ…。」

突然立ち止まった天音の目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。


「うっひっく」


そして、天音は冷たい地面にひざをついて、声を押し殺したように泣いた。


「…天音…。これはハナミズキの花びらだよ…。」


華子がやさしく、天音の肩に落ちた花びらを、手に取った。



「もう…雪は…見れないの…?」



まるで雪のようだったんだ。




その真っ白い花びらが。




はかなく散るりゆくその花びらが。




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