何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】
「な…。天師教様が刺された…?」
辰が町に見回りに出ている間に、その事件は起こった。
城に帰ってきた辰は、他の兵士からその報告を聞き、言葉を失った。
もちろんそれは、トップシークレット。
その事を知っている兵士もごくわずかだ。
「ああ。捕らえた反乱軍の一人が、脱走したらしい。もちろん、その男はまた捕まえたけどな。」
「天師教様は…?」
(まさか…。)
最悪の事態が、辰の頭の中をよぎった。
「無事に決まってんだろう。天師教様なんだから。」
その兵士は、当たり前のようにそう言った。
—————天使教が死ぬなんてあり得ない。
この城の兵士もまた、民衆と同じ…。
天使教は神、不死身の存在だと疑う事はない。
もちろんその情報は、宰相が流したもの。
例え兵士だとしても、天使教が瀕死状態だなんて、口が裂けても言えるはずはなかった。
しかし辰は違った。
(その情報は確かなものなのか?)
辰は顔をしかめたまま、その場に立ち尽くした。