揺るぎのない愛と届かない気持ち
「夫には見せていないわ。
ショックのあまり
心臓発作で倒れられても困るし。」

俺はじわじわと、
まるで
真綿で首を絞められているかのように、
段々と息苦しくなってきた。

「あの写真の説明は?」

お義母さんからの針の一本が、
心臓に到達した。

「二人とも酔っ払っていて、
彼女は素っ裸でベッドに。
俺はリビングのソファに。
朝起きて、
彼女を起こして帰ってもらおうと
寝室に行った時に、、、
長内はまだ酒が残っているような感じで、
抱きついてきて、、、」

上手く説明しようと思えば思うほどに
しどろもどろになる。

「支離滅裂で、
話の内容が詳らかには
伝わってこないわね。
そもそもなぜ、
紗英がいない隙に彼女を連れ込んだの?」

「長内が結婚前にブルーになっていて、
その愚痴を聞いてやるために
一緒に飲みました。」

「あなたたちはよく一緒に飲むのかしら?
東吾くんも紗英の愚痴とかを気安く、
元カノに言うの?」

「いえ、、、はい、、、」

「どちらかしら?」

「愚痴を言うために、
わざわざ飲みに誘ったりしませんが、
社食で一緒に
昼を食べている時や、同期会で会ったときに、
何かあったら、言っているかもしれません。」

「きっと紗英はいい気持ちがしないでしょうね。
自分の愚痴を元カノに話している夫のこと。」

そうだろう。
冷静に考えたら、飯のついでや、
何かのついでに話していい話でもないだろう。

「そうですね。
でも長内は元カノというより友人なので、
異性に話しているいうことは、ないんです。」

「お互いに?」

「はい。
お互いに。」

「あなたは彼女のそういう気持ちを
代弁できるくらいに、
近いところにいるのかしら。

紗英より距離が近いのかもしれないわね。」

これは誘導尋問か。

「いえ、断じてそういうことはありません。
紗英が一番大事です。
長内は本当に友達なんです。」

「そこよ。」

「えっ?そこ?」

どこだ?

「そこ。
じゃぁ、なぜあんなに紗英を動揺させたの。

あの子は間違えば、
今度のお産で命を無くしたかもしれない。
子供だって、
無事ではいられなかったかもしれない。
そういう危険なことになったのは、
東吾くんの認識の甘さでしょ。

あなたが彼女は友達だと言った。

けど、現実は裸で抱き合っていた。
夫婦のベッドでね。

紗英が一番大事だと言いながら、
あなたは紗英を守ったのかしら?」

「。。。。。」

「幸いなことに。
本当に幸いなことに、
神は紗英親子を救ってくださった。
だから、
私はいつか紗英自身であなたとのことに
決着をつけるべきだと思うの。

私は、
あなたから聞いたことしか知り得ないから、
あなたの味方にはなれない。
かと言って、
熱りまくっている夫の味方でもない。

まぁ、あれね。」

お母さんは淡々としたまま、
コーヒーを口にすると、ほうっと一息ついた。

女優だ。

人の気持ちを不安にするのにも、
その仕草だけで煽ってこられる。

「まぁ、あれね、、、」

あれね、、、

何を言われるのか、
自分の足元に冷や汗の溜まりが
できているのじゃなかろうかと
思わず下を見た。

「その元カノさんとよく話しなさい。

東吾くんが友達だと思っていても、
彼女はどうだろう?

マリッジブルーで
魔が刺したのかもしれないけど、
彼女の思いは
結構、根が深いところにあるのかもね。

そうだっ!!
宿題!」

お義母さんはそういうと目の前で、
手をパンと音をさせて閉じ合わせた。

「彼女と話した結果、
どうだったか私に報告すること。

いいわね。

さっそうと決まったら、
今日はもうお帰りなさい。
もうすぐしたら夫が来るから。
また、病院を追い出されたら
かなわないでしょ。

二週間の期間をあげます。
詳細は追ってまた、連絡するわ。

じゃぁ
コーヒーごちそうさま。」

紗英のお義母さんは、
怖いけど、
無駄なく的確に疑問を投げかけてくれた。

こんがらがった糸を頭の中に
抱えている俺に、上手に解くきっかけを
与えてくださったのだろう。

長内ともあれから話していない。
婚約者とはどうなったのだろうか?



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