課長と私のほのぼの婚
「うふっ、はい。ありがとうございます」


やっぱり課長って、良い人かも。

照れくさそうな彼を見て、冬美はあらためて思う。

そして、早く食事を終わらせたいが、楽しみたい気持ちにもなるのだった。


「おっ、来ましたよ」


料理が運ばれてきた。

課長が予約したのはこのレストランの看板メニュー『金目鯛の煮つけと海の幸御膳』。コースではなく、すべて一度に提供される式なので、テーブルはたちまち大小の皿で埋め尽くされた。


「で、でか……っ」


メインの皿を見て、冬美が驚きの声を上げる。


「これが金目鯛の煮つけ……頭から尻尾まで、まるごと調理されてる!」

「立派でしょう? ちなみに金目鯛は鯛の仲間ではなく、キンメダイ科の深海魚です。煮つけの他に干物も人気がありますよ」

「く、詳しいですね」


煮つけの迫力に圧倒されつつ、課長の蘊蓄に感心する。かつて伊豆のリゾート開発に携わった彼は名産品の知識が豊富なのだ。


「それにしても、すごいお皿の数。こんなにたくさん、食べ切れるかな」

「一皿の量はそれほどでもないから、大丈夫。野口さんなら……」

「えっ?」

「いいえ、なんでもありません。ではいただきましょう」


今、何か言いかけたような。ちょっと気になったが、課長が食べ始めたので、冬美も箸を取った。

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