課長と私のほのぼの婚

課長はグルメ

とりあえず小鉢から始める。蛸ときゅうりの酢の物のようだ。


「んんっ?」


想像した味と違う。酢の物はさして好きでもないのに、どういうこと?

これならいくらでも食べられそう。


「酢の物なのにまろやかな味。すごく食べやすいです!」

「うん、確かにうまい。先代の味が見事に引き継がれていますね」

「……先代?」


舘林課長は目を細め、冬美に教えた。

伊豆にホテルを建てる際、このレストランの先代料理長を引き抜く話があった。

何度も打診した末、結局断られてしまったが、彼の腕に惚れ込んだ課長は、たびたび下田を訪れては先代の料理を味わったとのこと。

金目鯛の煮つけはもちろん、酢の物もそのうちの一品である。


(なるほど……だからわざわざ下田まで金目鯛を食べに来たのね。にしても、さすが館林課長。この人はきっと、高級食材とか一流の料理に精通するグルメなんだ)


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