私、あなたの何なのでしょう? 10年目の再会は愛の罠
その声に菜々美が振り向くと、応接セットには家人がすでに座っていた。
見覚えのある上条とかいう弁護士が慌てて菜々美を手招いた。
こっちに座れと言うのだろう。
応接セットから離れた場所に上条は立っており、その横にポツンと椅子が置いてあった。
菜々美に対する扱いが見てとれると言うもんだ。
彼女は気合を入れ直した。負のエネルギーで。
「ご挨拶が遅れまして、申し訳ございません。
三ツ藤商事広報部に勤めております、瀬川菜々美と申します。」
丁寧にビジネスにのっとった礼をしてから、上条が指した椅子に座った。
それから、周囲の人物を見渡す。
「フォフォフォッ…。」
変な笑い声が聞こえた。あの老人が愉快そうに笑っている。
「大介、胆の据わった娘だな…。」
「はい…。」
老人が声を掛けたのが、叔父の大介だろう。
その横で憮然とした顔をしているのが、その妻貴子か。
少し離れて座っている、黒縁のメガネが従兄妹にあたる要。
隣のソファーに座るのがその妹、瑠美か…。
貴子と瑠美に共通しているのは、座る姿勢は優雅で美しいが
背筋の伸び方が働く女性とは少し違っている点だ。
菜々美たちビジネスに関わっている人間とは『別次元』に住む人だから。
広報で様々な場所に立ち会っているうちに菜々美は肌で知った。
この二人は美しいが、『社会』に出で『働いた事が無い』タイプ。
菜々美とは全く違う世界の人達だ。