私、あなたの何なのでしょう? 10年目の再会は愛の罠


「こちらでございます。」

玄関ホールの奥にある扉を、白い割烹着の女性が開けてくれた。

分厚い木製の彫刻のあるドアの向こうは、応接室の様だった。


『本物の暖炉だ…。』

上品に振舞おうと思っていたが。部屋の豪華さについ気を取られてしまった。

『本物のシャンデリアだ…。』

突然、暖炉の前の車椅子に座っていた老人が咳き込んだ。
痰が絡んだのか、ゴホゴホと苦しそうだ。

「大丈夫ですか?」

声を掛けるより早く菜々美は老人の背をさすっていた。

「ああ…。大丈夫だ。」

何とか返事をしたのは、白い顎髭を蓄えたキツイ目をした皺だらけの老人だ。
さすったその背は、手に骨が当たるくらい痩せている。

ふと顔を上げるとマントルピースの上に、白いバラを活けた花瓶があった。
その横に、上品な美しい老婦人の写真が飾ってあるのが見えた。

スッと菜々美の心に一つの事実が染み透ってきた。
自然とその写真に頭が下がる。軽くだが、一礼した。

『お祖父様(じいさま)とお祖母様(ばあさま)か…。』


感慨にふける間も無く、ポソリと女性の声が耳に届いた。

「あざとい事…。」


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