激甘御曹司は孤独な彼女を独占愛で満たす
まだ吸い途中だった煙草を惜しげもなく灰皿に押し付けて、目元を細め微笑んだ。
なのでカバンからあの紙袋を取り出した。
「困ります。こんな素敵な服、あとで料金お渡ししますので」
「いい。美優に似合うと思って選んだ服だから、美優のものだしな。さて車に乗って」
「……でも」
「今日の記念に貰って、――要らないなら俺がいない場所で捨てていい。流石に目の前で捨てられたら俺は死んでしまう」
冗談のつもりで言ったようだけれど、たとえ冗談でもそんなことできない私は難色を顔に出していたのだろう。宇柳さんの顔が、微笑んでいる。
「プルースト効果、な。美優の香水の香りがすると、泣きじゃくる美優とのあの夜が思い出されるな」
あんなふうに泣く姿は見たくない。
俺は大切にしたいと思うよ。
宇柳さんはそれだけ伝えると、私の頭を撫でてくれた。
「まあ、お疲れ。また何かあれば俺を頼ってくれな」
視界が滲んでいく。
冷たく切り捨てなければ、傷ついた自分が優希に気づかれそうで嫌だった。
弱い自分、惨めな自分なんて今日で終わりでいたい。
「今日、やっぱり優希の顔を見て、殴りたいって。憎くて気持ちがぐちゃぐちゃになりました。私、冗談でも貴方に慰めてもらえるような人間ではないです」
「今はそう思うんだよ。自分の傷を治すために周りが見えないからきね。今は、それでいいよ」
余裕ぶった彼すらも今は少し苛々してしまう。
彼にはこれほどどん底に落ちるような絶望を体験したこともないだろう。