激甘御曹司は孤独な彼女を独占愛で満たす

「……話し合いは終わったか」

 送ってくれた後も、ここで待っていてくれたらしい。
 彼の煙草の香りが濃く残っている。灰皿に何本もその煙草が押し付けられていた。
 頷いて、小さくため息が零れた。

 真面目なところが好きだったんだけれど、なんて。感傷に浸れるほどの熱量はない。
 この歳になると、別れるだけでもエネルギーが大量に消費されてしまうのだと知った。

「送っていくよ」

 また、彼が腕時計を確認しようと袖を少しめくった。
 すると、ふわりと彼の香りが、した。

「プルースト効果ってご存知ですか?」
「プルースト効果?」
「嗅覚や味覚から過去の記憶が呼びさまされる現象です」
「へえ」

 吸っていた煙草を灰皿に押し付けると、彼は興味深そうに聞いてくれた。

「今日飲んだ珈琲の銘柄はきっと二度と飲まない。思い出しちゃう」
「そうか。で、俺の香りは?」

 あの夜とは違う香水を身に纏っているのに、私は彼自身の香りに酔いそうになっていた。
 抱きしめられたあの日の、彼の匂いが鼻をくすぐった。

この手で、何人の女性をお姫様のように仕立て上げ、何人もの女性を虜にして、――きっと手に入れてきたに違いない。

まるで自分がお姫様になったような、そんな夢心地の甘い空間を作り出していた。

「美優」
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