激甘御曹司は孤独な彼女を独占愛で満たす

 大人ぽくって知的な男性のイメージだったけど笑うと、少しだけ幼く見えた。

「まあそうだな。無理やり仕事で連れてこられて嫌だったんだ。俺もふさわしい格好に着換えてこようかな」

 彼は顔を真っ青にしていたウエイターに英語でテイクアウトを頼んだ。
 へえ。テイクアウトできるなら、私も今度からは部屋で食べたい。

「このネクタイは、まだ助かりそうかな」
「あー、はい。ちょっと貸してもらっていいですか」

 彼からネクタイを貰うと、微かに香る香水に胸が騒いだ。
 上品な付け方だ。ラストノートや体臭と交わったあとの香りを想像して、ざわめく。
 素敵な人は香りまで素敵なんだ。

 ハンカチを裏に置いて、濡らしたコットンでトントンと叩く。
 結婚式場でネクタイを汚して困っていたお客様を死ぬほど見たことがあったので、経験が役に立った。
 それに何かしている方が周りも見なくて済むし、楽だ。

「これで染みは目立たないと思います。でもクリーニングは必ずしてください」
「ありがとう。姪っ子からのプレゼントなんだ。助かったよ」

 彼はご機嫌に微笑むと、私を真っすぐ見つめてきた。
 あまりに情熱的に見つめてくるので、顔に穴が開きそう。

「君は、一人?」
「えーっと、仕事です」
「俺も」
 急に居心地が悪くなったので、急いで平らげて彼がテイクアウトのランチを受け取っている隙に席を立った。
 傷心中の私には、あまりにも彼が眩しすぎたからだ。
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