激甘御曹司は孤独な彼女を独占愛で満たす

「電話にも出ないとか、親に歯向かうのはやめなさい」

 母が怒鳴っている。
 けれど余所行きのフォーマルワンピースを着ているのと大量の紙袋を見て、察した。
 私が帰るまで、あちこちでショッピングしてきたんだろうな。
 それで反抗的な私に、立場を分からせようとついでに説教しに来たんだろう。

「仕方ないでしょう。お姉ちゃんは皆に愛されちゃうんだから」
「……すみません。タクシー出してください」

 料金を払ったのに、自分でドアを閉めた。

「発進させてください」
 タクシーの窓を叩こうと走ってくる親が、世紀末に徘徊するゾンビのように見えて恐ろしかった。

『美麻ぁ。突然だけどヘルプミー』

 駅でタクシーか降りてベンチに座って美麻からの返事を待つ。
 けど私よりも飲んでたし、家に着くなり眠ってそうだ。


 近くのビジネスホテルかマンガ喫茶で一晩過ごすしかないのかな。
 終電ももうすぐだし、人混みもまばらだ。
 酔っぱらいの怒鳴り声や、居酒屋から出てくる人たちの煙草の匂いに眉をしかめてしまう。
 そういえば、彼の煙草の匂いは嫌どころかとても魅力的だったな。

 色んな香りや匂いがするのに。今も色んな匂いが漂っているのに。
 ずっとそばで嗅いでいたいような香りに出会ってこなかった。

 それは恋愛も一緒で、優希は私と同じような真面目な部分が好きだった。
 匂いや香りはタイプではなくても、安定だけ求めていたような気がする。
 真面目に誠実に生きてきたつもりだったのになあ。
 中途半端で、しっかりした大人にもなりきれていないや。
 ビジネスホテルに泊まろうと、立ち上がった。
「美優?」
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