一夜では終われない~ホテル王は愛しい君を娶りたい~
 この間までの私だったら智秋さんの言葉に揺れて、深冬の側を離れようと思ったかもしれない。

 だが今は自分の想いのまま生きようと決めた。これからはいつか来る別れを一秒でも遅らせられるよう、日々を大切に過ごすだけだ。

「私だって深冬が大切です。彼が傷付かないように……私にも頑張らせてください」

 うまい言い方が見つからず、子供じみた懇願になる。

 まだ手をつけられていない智秋さんのグラスの中で、氷がからんと音を立てた。

「君になにができる?」

 ひどく冷えた声が私の心臓を掴んだように錯覚する。

 私なんかになにができる?

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