一夜では終われない~ホテル王は愛しい君を娶りたい~
 彼の問いは私自身の問いに変わって頭の中を回った。やがてそれが、父と母の声に変わる。

『こんなに勉強ができないなんて……。高い金を払って塾に行かせたのに』

『まあ、もう好きにしなさい。どうせ私たちの期待には応えられないんだから』

『頑張ったところでがっかりされるのがオチでしょ。自分でわからないの?』

 嫌な声が聞こえなくなるよう願って唇を噛み締める。

 この声を思い出してしまうから、私は肝心な時にネガティブな考え方をするのだ。

 耳を傾けたら、また深冬とふたりで生きると決めた心が揺れる。

「私は」

 ようやく吐き出した声はとてもか細くて、震えていた。

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