一夜では終われない~ホテル王は愛しい君を娶りたい~
 アモラリアでは一定の階層から自由な立ち入りができないよう、カードキーがなければ上階に行けないようになっている。彼が私に来るよう言ったアモラリアスイートもそうだ。

 扉が閉じてエレベーターが動き出すと、深冬は可能な限り距離を取ろうと壁の隅に背中を押し付ける私を振り返った。

「杏香」

 はっきりと彼が私の名前を呼ぶ。

 十年前は何度も呼ばれていたのに、久し振りに呼ばれるせいか信じられないほど胸が騒いだ。

 なぜ泣きたくなったのか、私にだって理由がわからない。

「人違い、です」

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