一夜では終われない~ホテル王は愛しい君を娶りたい~
「やめて」

 遮るように言ってからエレベーターの階層表示を見る。

 ちょうど二十階を通り過ぎ、二十一階に表示が切り替わったところだった。

 早く彼から離れないと、平常を装う仮面が剥がれそうだ。仕事中はポーカーフェイスを保てるのに、どうして今はうまくいかないのか理解できない。

「今さらなんだって言うの。私たちは十年前に終わったでしょ」

 ずっと自分に言い聞かせてきたはずなのに、彼に伝えるだけで心が引き裂かれるようだった。

 私たちは終わっている。今にも触れ合いそうな距離で見つめ合っていても、だ。

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