一夜では終われない~ホテル王は愛しい君を娶りたい~
「じゃあスイート専用のラウンジやバーもメニューに値段が書いてないんだ」

「ああ。要望があれば記載されたものもすぐに用意するが」

 知らなかったと認めるのは少し悔しいが、早いうちに知れてよかったと気持ちを切り替える。

「スタッフとして学んでおけって言うなら、遠慮なく頼んじゃうけど……本当にいいの?」

「十年分頼んでもいい」

 私に触れないようひとり分の距離を空けた深冬が目尻を下げて微笑する。

 そこにはたしかに私が好きだった大学生の頃の彼が残っていて、切なさに胸がちくりと痛んだ。

「それなら……」

 キスの余韻は忘れ、彼への想いを奥底に封じ込めて表に出ないよう願った。

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