片恋
「でも、真桜がナデシコの歌を好きだって言ってくれて、毎日話をするようになって、自分には過去しかないことが、なんか悔しくなっちゃってさ。昔の俺と声が似てる姉さんに、毎日練習に付き合ってもらってたんだ」


私が勝手に勘違いをした、音楽室でのあの光景は、そういう事情があってのことだったなんて。

ちゃんと確かめもせずに決め付けて、恥ずかしい……。


「でも、ダメだな。この一年、自分の声を認めたくなくて、全然歌ってなかったから、めちゃくちゃ下手くそになってた」


伊月くんがずっと浮かべていた苦々しい表情が、柔らかい笑顔に変わる。


「また歌いたいって思えたのは、真桜のおかげなんだ。また歌が作れるようになったら、一番に聴いてくれる?」
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