エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
「行くぞ」

「い? え。あ、あのっ……」


ほとんど引き摺られるようにして歩き出すと、辺りがざわざわしていた。
女性数人のグループが口に手を当て、興味津々で遠巻きにしているのに気付き、


「……!!」


人目も憚らず、道端で瀬名さんとキスしていた私への冷やかしだと察した。
頭のてっぺんから蒸気が噴き出そうなほど顔を火照らせる私とは真逆に、瀬名さんはまったく表情を変えない。
車道際に寄り、サッと手を上げて空車のタクシーを止めると、私を後部座席に押し込んだ。


「あの、瀬名さ……」


ようやく我に返って、耳まで真っ赤にしてあわあわする私の隣に自分も乗り込み、


「品川まで」


運転手に、短く行き先を告げた。


「え、し、品川?」


タクシーが走り出しても、ひとりパニックしている私を横目で見遣る。


「ひとまず、俺の家に来い」


それだけ言って、やや窮屈そうに長い足を組む。


「え……えええっ!?」


ギョッとして素っ頓狂な声をあげると、ギロッと睨まれた。


「うるさい。静かにできないなら、今すぐ突き落とすぞ」


冗談ではなく本気で言っているのは、凍りつきそうなほど冷え切った視線を浴びれば、よくわかる。


「は、はいっ……」


私は竦み上がって、それきり黙り込んだ。
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