さようなら、同い年のあなた
コップの中にこぼさず入れればいいものを、よく見もしないで注ぐので、初めからコップの中も外も大洪水。

お水を止めるのも注ぐのも片手でやるものだから、コップが斜めになって少しこぼれる。

あまりに適当すぎて、机に置くと、毎度毎度コップの下に立派な輪っかができあがる始末。


それで、ぬれても大丈夫なコースターを買ったのだ。


輪っかができたら自分できちんと拭くのはいいのだけれど、でもまあ、コースターがあって損でもないでしょ。


そうしたら、変にズボラなひとだったから、ありがたがって適当に汲み続けていた。


思い出し笑いに、「そんなに笑わなくたっていいじゃありませんか」と男が困り顔をした。


「いえ、違うんです」

「違う?」

「わたしの好きなひとを思い出してしまって。お水を雑に汲むひとだったなと思って」


あなたのことじゃないんですよ、と訂正したのに、男はもっとよく分からない顔になった。


「すきな、ひと、ですか」

「はい。恋人です。ちょっと抜けてて雑なところがありますけど、とってもいいひとなんですよ」


会いたいな、と思った。


会えるかな、いや、会えるだろうな、と思った。


大丈夫。お見舞いに来てくれるに決まっている。
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