身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
七月の中旬。月経の遅れに気づき、椿は期待に胸を膨らませて婦人科へ駆け込んだ。

医師から妊娠六週目と診断され、喜んだのも束の間、不安が押し寄せてくる。

やっと仁の子を妊娠できた――が、果たして仁は喜んでくれるだろうか。

もう焦って子どもを作る必要もないと言っていた。今の仁が子どもを欲しがっているのかはわからない。

ふたりホテルで幾度も体を重ね合わせたあの日。

仁は『もう避妊もしない』と言っていたから、懐妊の可能性をまったく考えていないわけではないだろうけれど、こんなにも早くその日が訪れるとも思っていなかったはずだ。

自宅への帰り道、両親にはまだ伝えず、まずは仁に報告しようと心に決めた。

――喜んでもらえるといいんだけれど……。

この日、病院へ行くためにみなせ屋を午前休した椿。代わりに両親が店に出ているので自宅には誰もいない。

椿は一度家に帰って昼食を食べてからみなせ屋に向かおうと、自宅の玄関の鍵を開けた。

だが、鍵が空回りして異変に気づく。すでに鍵が開いている……?

玄関のドアを開けると、中央に女性物の草履がひとつ脱ぎ揃えられていた。母が帰ってきているのだろうか?

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