身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「それは君が決めることではないだろ」

『それともあなたは、椿を籠の鳥にしてかわいがりたいの? 相変わらずエゴイストね』

ぐっと拳を握りしめ「ふざけるな」と声を荒げた。

だが、仁の椿に対する独占欲は相当なもので、それをエゴと言われれば返す言葉もない。

愛する人をできる限り傍に置いて守り導きたいと考えるのは、ごく普通の感情であるはずだ。

だが椿にとって、この愛情は枷となるのか? 仁が籠に鍵をかけたつもりがなくとも、心優しい椿は籠から出てくれないかもしない。

あえて突き放して自由を与えてやるのが愛であるという見方もある。

『いい加減、妹を解放してあげて』

胸を抉るような言葉を残して、通話は切れてしまった。

椿へ確固たる愛を感じる一方で、菖蒲の考え方は正しいのかもしれないと、そんな不安が頭をよぎる。

椿と一緒になることが仁の望みだ。

だが、仮に菖蒲の言うように、妊娠が嘘や間違いだったとするならば。

己の欲望のまま椿を抱え込み慈しむことが本当に彼女のためとなるのか、どうしてやるのが椿にとっての幸せなのか――仁には答えが出せなくなった。


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