身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
今後の行き先は決めていないが、着物にゆかりのある土地へ行くのはどうだろう。工房や問屋が多くある場所の方が、着物に関連した就職先も探しやすいはずだ。

孤独への恐怖を紛らわせるかのように、目的地に想いを馳せる。

着物の染めといえば、王道は京都の京友禅、金沢の加賀友禅だろう。

両者は染め方にそれぞれ特徴があって、煌びやかな金彩が美しい京友禅に、繊細な色調とぼかしの技術が際立った加賀友禅、どちらもとにかく素晴らしい。

東京にも江戸友禅と呼ばれる技法が存在するが、東京生まれ東京育ちの椿にとっては、前者への憧れが強かった。

織物の産地は全国に散らばっているのだが、とくに先に挙げた京都、石川の二府県でいえば、京都には西陣織、石川には牛首紬があり有名だ。

――織りも繊細かつ大胆で素敵だけど、手描き染めにはロマンを感じるのよねぇ……。

もちろん、ぽっと行ってその職に就けるなどと安易なことは思っていないが、憧れの産地で、着物にかかわりのある仕事に就ければ充分だと椿は思っていた。

そして椿には、仕事以上に、出産と育児という大事な使命がある。

育児をしながら働けるような仕事を見つけなければならない。

――出産、か……。

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