朔ちゃんはあきらめない
ひまりちゃんは優しく愛されたい

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 傷ついているが、旭さんとの関係を終わらせるかどうかはまた話が違うのだ。
 
 ベッドの中で目をつぶれば眠気よりも旭さんのことが頭を支配する。明日は学校なのに全然寝られなくて、枕元に置いたスマホに手を伸ばした。そういえば、エマが勧めてくれたアーティストの曲でも聞いてみようか、と思い立ったのである。
 ミュージックアプリを起動させ、アーティスト
名を検索バーに打ち込んでいると、メッセージの通知バナーが表示された。

「わ、旭さんだ」

 と思わず声に出してしまう程に驚きと喜びがわたしを襲う。通知バナーは一瞬で消えてしまうので内容は分からなかったが、確実に旭さんからだった。
 わたしは急いでメッセージアプリを起動する。エマのオススメアーティストはもちろん後回しだ。

『今日はごめんね。お詫びに2人でどこか行こうか』

 そのメッセージを読んだ瞬間、これは夢かな?と真っ先に思った。だけどさっきまで寝れないと悩んでいたのだ。それになにより、きゅうと苦しいぐらいに締め付けられる心臓の痛みが現実だと教えてくれている。
 というか、旭さんに"お詫び"だなんていう殊勝な気持ちがあったことにも驚く。かなり失礼な話だが、そう思ってしまうほどに旭さんは人の気持ちに無頓着だと感じていたのだ。
 しかし今はそんなことどうだっていい。旭さんがわたしをデートに誘ってくれたのだ。気まぐれでも、お詫びの気持ちでもわたしにはどうだっていい。
 寝れない寝れないと悶々としていたのが嘘みたいだ。『楽しみです』と返すと抗えない睡魔に襲われる。幸せな夢を見れそう、と思ったが、今この時以上に幸せなことなどあるだろうか。





 平日に夜ご飯を食べに行くか、それとも休日に1日デートをするか選んで、と言われわたしは迷わず1日デートを選択した。1日でも早く会える平日も確かに魅力的だが、1日デートの響きには敵わない。

「オッケー!じゃあ、観光でもしよっか」

 旭さんはさらりとデート先を提案してくれた。わたしは旭さんと行けるならどこでも良かったので、その提案に二つ返事で了承する。
 「じゃあ、日曜にね」と約束をしたのが5日前。たった5日間がこんなに長く感じたのは初めてだった。放課後にエマに付き合ってもらって新しい洋服を買ったり、少しでも可愛く見えるようにメイクの研究もした。何度も鏡の前に立ってヘアアレンジの練習もしたし、ネットで"彼を落とす10のテクニック"とかいう眉唾物の記事を読み漁ったりもした。
 そんなことをしながらの、やっとの日曜日だ。昨日はドキドキしすぎて眠れなかった。会えばホテル直行のわたしたちだった。もちろん2人で会うことは初めてじゃないけど、デートらしいデートは初めてなのだ。

 最後にもう一度鏡で全身をチェックする。一つしか違わないがぐんと大人っぽい旭さんだ。釣り合うだろうか。お母さんのメイクポーチからこっそり借りたブランド物のルージュを塗った唇が、艶やかに輝いていた。



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