朔ちゃんはあきらめない
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2度目のお宅訪問がこんな形になるなんて想像もしていなかった。相変わらずの物々しい入室方法に緊張しながらエレベーターへ乗り込む。
正直に言うと、わたしの怒りの気持ちは旭さんの顔を見た瞬間に綺麗さっぱり消え失せてしまった。……ううん。本当は、朔ちゃんに慰められたあの日にほとんど消えてしまっていたんだと思う。
だから道中の気まずい雰囲気には、中々耐え難いものがあった。何度「もう気にしてないですよ」と告げようと思ったことか。だけどあの旭さんがしょんぼりと申し訳なさげにしている姿が新鮮で、もう少し見ていたいという気持ちが勝ってしまった。我ながら、朔ちゃんに「性格腐ってる」と評されただけはあると思う。だけどこれぐらいの仕返しは許してほしい、というのが本音だ。
わたしをリビングに通した旭さんは、前回と同じようにソファに座らせ、自分はキッチンへ飲み物を入れに行ったようだった。
少ししてからカップを両手に持った旭さんが現れ、「はい」と片方をわたしの前に置いた。
「ありがとうございます」
カップに口をつけると紅茶の上品な香りが鼻をくすぐる。相変わらずお洒落なものを飲んでいるなぁ。これも朔ちゃんの趣味かな?と思うと、一気に肩の力が抜けた。
「あのさ、この前ほんとごめんね」
わたしがカップをテーブルに置くなり、旭さんは謝罪の言葉を口にした。本当に申し訳ないと思っていそうな表情に、わたしの心はさらに晴れていった。
「大丈夫です。そりゃ悲しかったですけど、もう気にしてないですよ」
「……うん。あの、信じられないかもだけど、次こそちゃんとデートしよう」
なんで急に優しくするんだろう。諦めさせてもくれないなんて、本当に酷い人だ。
いつものように、傷つけても知らんぷりしていてくれたなら良かったのに。……いつもは傷つけていることにすら気付いていないのか。本当にわたしに興味ないんだな……。というか、のぞみさんにしか興味がないのか。
分かっているのに好きの気持ちは膨らんでいくばかりだ。わたしに身体だけの関係は早すぎた。出会ってまだ2ヶ月やそこらなのに、もう泣きたくなるほどに苦しいんだもの。
旭さんからの仕切り直しのデートの誘いを、わたしは緩く首を振って拒否した。今デートに行けば、好きの気持ちを隠してはいられないだろう。そうなれば旭さんは離れてしまう。
もう自分がどうしたいのかさえ分からないのだ。関係を終わりにしたいのに、旭さんのそばにいたい。どちらも本心なのに、その2つの願いが共存する道はないのだ。
「え、なんで?僕のこと嫌いになった?」
「……嫌いもなにも、好きじゃないですよ、旭さんのこと。デートなんていらないんで、セックスしてください」
セックスをしているときだけは、旭さんはわたしのものだ。わたしだけを見つめて、わたしのために時間を使ってくれる。
それがはっきりと分かる、今の最高だった。
わたしの言葉を聞いた旭さんは、「ふっ」と鼻で笑い「僕もひまりちゃんとしたいと思ってたんだ」と身体を近づけた。
先ほどまでの殊勝な態度が嘘みたいだ。瞬時にわたしをソファに押し倒した旭さんは、食べるようなキスでわたしを惚けさせた。
シャワーを浴びる気配もない早急なセックスの開始に、シャワーを浴びたいと言った朔ちゃんの姿を思い出す。
「あっ、ん、まっ、て……朔ちゃんは?」
「っは、……朔?」
この前のように帰宅した朔ちゃんに目撃されることは絶対に避けたい。前回はお互いのことを深く知らなかったのでなんとか耐えられたが、もし今日再び目撃されたら……耐えられる自信は微塵もなかった。
「朔ちゃんに見られたくない……」
「……そう。わかった。じゃあ、僕の部屋に行こう」
そう言った旭さんは、徐にわたしの膝下に腕を差し込むと、そのまま抱え上げて歩き出した。初めてされた、所謂お姫様抱っこ。少しの不安定さに、旭さんの首に腕を回す。そんなわたしに、旭さんはくすりと笑みをこぼした。
2度目のお宅訪問がこんな形になるなんて想像もしていなかった。相変わらずの物々しい入室方法に緊張しながらエレベーターへ乗り込む。
正直に言うと、わたしの怒りの気持ちは旭さんの顔を見た瞬間に綺麗さっぱり消え失せてしまった。……ううん。本当は、朔ちゃんに慰められたあの日にほとんど消えてしまっていたんだと思う。
だから道中の気まずい雰囲気には、中々耐え難いものがあった。何度「もう気にしてないですよ」と告げようと思ったことか。だけどあの旭さんがしょんぼりと申し訳なさげにしている姿が新鮮で、もう少し見ていたいという気持ちが勝ってしまった。我ながら、朔ちゃんに「性格腐ってる」と評されただけはあると思う。だけどこれぐらいの仕返しは許してほしい、というのが本音だ。
わたしをリビングに通した旭さんは、前回と同じようにソファに座らせ、自分はキッチンへ飲み物を入れに行ったようだった。
少ししてからカップを両手に持った旭さんが現れ、「はい」と片方をわたしの前に置いた。
「ありがとうございます」
カップに口をつけると紅茶の上品な香りが鼻をくすぐる。相変わらずお洒落なものを飲んでいるなぁ。これも朔ちゃんの趣味かな?と思うと、一気に肩の力が抜けた。
「あのさ、この前ほんとごめんね」
わたしがカップをテーブルに置くなり、旭さんは謝罪の言葉を口にした。本当に申し訳ないと思っていそうな表情に、わたしの心はさらに晴れていった。
「大丈夫です。そりゃ悲しかったですけど、もう気にしてないですよ」
「……うん。あの、信じられないかもだけど、次こそちゃんとデートしよう」
なんで急に優しくするんだろう。諦めさせてもくれないなんて、本当に酷い人だ。
いつものように、傷つけても知らんぷりしていてくれたなら良かったのに。……いつもは傷つけていることにすら気付いていないのか。本当にわたしに興味ないんだな……。というか、のぞみさんにしか興味がないのか。
分かっているのに好きの気持ちは膨らんでいくばかりだ。わたしに身体だけの関係は早すぎた。出会ってまだ2ヶ月やそこらなのに、もう泣きたくなるほどに苦しいんだもの。
旭さんからの仕切り直しのデートの誘いを、わたしは緩く首を振って拒否した。今デートに行けば、好きの気持ちを隠してはいられないだろう。そうなれば旭さんは離れてしまう。
もう自分がどうしたいのかさえ分からないのだ。関係を終わりにしたいのに、旭さんのそばにいたい。どちらも本心なのに、その2つの願いが共存する道はないのだ。
「え、なんで?僕のこと嫌いになった?」
「……嫌いもなにも、好きじゃないですよ、旭さんのこと。デートなんていらないんで、セックスしてください」
セックスをしているときだけは、旭さんはわたしのものだ。わたしだけを見つめて、わたしのために時間を使ってくれる。
それがはっきりと分かる、今の最高だった。
わたしの言葉を聞いた旭さんは、「ふっ」と鼻で笑い「僕もひまりちゃんとしたいと思ってたんだ」と身体を近づけた。
先ほどまでの殊勝な態度が嘘みたいだ。瞬時にわたしをソファに押し倒した旭さんは、食べるようなキスでわたしを惚けさせた。
シャワーを浴びる気配もない早急なセックスの開始に、シャワーを浴びたいと言った朔ちゃんの姿を思い出す。
「あっ、ん、まっ、て……朔ちゃんは?」
「っは、……朔?」
この前のように帰宅した朔ちゃんに目撃されることは絶対に避けたい。前回はお互いのことを深く知らなかったのでなんとか耐えられたが、もし今日再び目撃されたら……耐えられる自信は微塵もなかった。
「朔ちゃんに見られたくない……」
「……そう。わかった。じゃあ、僕の部屋に行こう」
そう言った旭さんは、徐にわたしの膝下に腕を差し込むと、そのまま抱え上げて歩き出した。初めてされた、所謂お姫様抱っこ。少しの不安定さに、旭さんの首に腕を回す。そんなわたしに、旭さんはくすりと笑みをこぼした。

