過保護な次期社長の甘い罠〜はじめてを、奪われました〜
どうして専務がそんな顔するの……。

「………もう、こうやって私のこと揶揄うのはやめて下さい………」

「………揶揄う?」

「辛いんです……!苦しいんです……!だからもう、大切な人がいるクセに私にこういうことしないで下さい……っ!」

「は?羽衣っ!待て!」

そう言って私は専務の静止する声も聞かず、彼の腕を振り切ってドアまで駆け寄り、掛けられた鍵を急いで開けて会議室から飛び出した。

会議室を出てしまえば人目もあるから専務も追いかけては来れまい。

片付け、して来られなかったけど、しょうがない………。

気を抜くと溢れそうになる涙を堪えて、足早に会議室から離れる。

ああ、あんなに頑張って触れられることを避けていたのに。

痛い、辛い、苦しい。………好き。

蓋の内側から気持ちが訴えてくる。

あの腕が、あの唇が、いとも簡単に私の閉じ込めた気持ちを溢れさせようとする。

閉じ込めたってダメだった。一度抱いてしまった気持ちは消せない。逃げられない。誤魔化せない。


坂崎さんの言う通りだった。
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