過保護な次期社長の甘い罠〜はじめてを、奪われました〜

もう、どうしたらいいの……。


会議室のある階とは別のトイレに駆け込む。

誰もいない洗面台に手を付き、上を向いて歯を食いしばる。

まだ業務中だ。受付だって渚さんに任せたままだし、ここで泣いてしまったら戻るに戻れなくなってしまう。

半ば意地で涙を抑え込んでいると、制服のポケットに入れていたスマホがぶるっと震えた。

取り出して見てみると、そこには坂崎さんからのメッセージを告げるバナー。

この前話を聞いてもらった時に、帰宅途中で改めてお礼のメッセージを送っていたから、坂崎さんと私はすでにトークアプリで繋がっていた。


"羽衣坊、今日晩メシ食いに行かない?そろそろキツくなってる頃じゃないかと思って。……なーんてな。ただオレが行きたいだけだから、予定なかったらさ、付き合ってよ"


この人は、どうしていつもこんな時に……。


そのメッセージと一緒に送られて来たパンダが両手を合わせてウインクしているスタンプを見て。



坂崎さんの優しさに、抑え込んでいた涙が一筋だけ流れてしまった。

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